BCP(事業継続計画)の観点から見た工場・倉庫建築

BCP(事業継続計画)とは、災害や事故、感染症、停電などの非常時でも、重要な業務を中断させない、またはできるだけ早く再開させるための企業の対策のことです。何を優先して守るのか、何時間以内にどこまで回復させるのかを定め、そのために人・設備・情報・拠点をどう用意し、平常時から訓練しておくかを含みます。防災は被害を減らす対策ですが、BCPは災害時でも事業を続ける対策です。工場・倉庫・事務所の建設においては、このBCPを反映することでより良い建物プランとなるでしょう。本記事では、埼玉・東京で建設をお考えの方に向けて、BCPの考え方を工場・倉庫建築に落とし込み、止めない現場をつくるための具体的な進め方を解説します。
止めない工場・倉庫の出発点——「再開したい業務」と時間目標を言葉にする
突然の地震や浸水でラインが止まり、倉庫の受払も停止。復旧の見通しが立たず、社内外の連絡も混乱——そんな状況は想像するだけで不安になります。ここでやるべきは、事業の要を言語化すること。出荷、製造、受発注、社内外の連絡など、会社ごとに「止めてはいけない中身」は異なり、自社の目的に合わせて備えることが大切です。
まず「何時間以内に何を再開したいか」を決めます。たとえば、出荷は24時間以内に再開、主要ラインは48時間以内に試運転、事務所の連絡体制は即日確保、という具合です。時間目標が決まれば、必要な建物条件が見えてきます。耐震のレベル、浸水への備え、非常電源や通信の二重化——どこに力点を置くかが自然に定まります。
①測量図やハザード情報で敷地の状況を確認
②「止めない機能」を用途ごとに書き出し、重要度と再開時間で優先順位をつける
③優先項目から建物条件(配置・高さ・電源・通信・動線)へ落としていく
設計へつなげる段取りは上記の流れになります。この順序なら、検討の途中で迷いにくく、設計・見積・工程の精度も上がります。最後に、社内の意思統一として、目標と優先順位を1枚の資料に残しておくと、以降の打合せが格段にスムーズに進みます。
敷地と外部リスクを先に確認——浸水・地震・停電・アクセスを設計に落とす
工場・倉庫・事務所の建設は、敷地と周辺環境の影響を強く受けます。地盤が弱い、河川に近い低地で浸水の恐れがある、幹線道路が一本しかなく渋滞しやすい、電力ルートが限定的——こうした条件を後から知ると、建物にとって大きなデメリットになります。設計者が正しく立地を確認・把握することで、必要な性能を兼ね備えた建物が実現します。
結論から言えば、外部リスクは「見える化」してから建物に反映します。浸水の可能性があれば、受配電設備・サーバ・通信機器は2階以上にまとめ、シャッターや出入口の下端は道路より高いレベルで計画します。地震に対しては、骨組み(柱・梁・ブレース)のバランスだけでなく、天井・照明・配管・ラックなど落下や転倒を起こしやすい部分の固定を設計段階で先に決めます。停電リスクには、非常電源の容量と切替の方法を図面と手順書に反映し、どの負荷に優先的に電力を回すかを明記します。アクセスについては、トラックの待機・転回・一方通行の動線を敷地内で完結できるよう計画し、緊急時にも詰まりにくいレイアウトにします。進め方は以下の三段階です。
①敷地と周辺の情報(地盤、浸水、主要道路、近隣の避難経路)を収集
②想定被害ごとに「設備を高く・遠く・分ける」などの原則を当てる
③配置計画・高さ計画・外構計画に落とす
これだけで、外部の不確実性が建物内の被害に波及しにくくなります。
建物で守る中身を具体化——構造・外皮・内装・設備の優先順位をそろえる
「耐震を強く」「断熱も良く」「設備も十分に」と要望が並ぶと、費用が膨らむのではと不安になります。ここで重要なのは、優先順位の決め方です。工場・倉庫・事務所では守るべき対象が違います。倉庫なら在庫の保全、工場ならライン周りの安全、事務所なら通信環境の復旧が要です。すべてを最大にするのではなく、守る対象に対して効果が高い順に投資します。
押さえるポイントは五つ。第一に、骨組みの計画。柱・梁の配置やブレースの入れ方で揺れ方が決まり、屋根・外壁の挙動も落ち着きます。第二に、外皮(屋根・外壁・開口)の固定と防水。強風時の負圧や吹込みを想定し、留め付け・シールの仕様を標準化します。第三に、非構造部材の落下・転倒防止。天井・配管・ダクト・照明・ラックの固定は、被災後の復旧時間に直結します。第四に、出入口・シャッター・避難動線の確保。停電時にも手動で開けられる仕組みと、明快な避難経路が重要です。第五に、電源・給水・排水・換気のバックアップ。通常運転・非常時・復旧の三つの運転モードを想定し、容量と切替方法を先に決めます。進め方は、延床面積と天井高さから骨格を決め、同時に非構造部材の固定計画を図面に書き込みます。外皮は標準仕様を用意して見積のブレを抑え、出入口は機能と安全の両面で確認します。設備は「何に何時間電力を回すか」を表で整理し、切替盤の位置と操作手順を工事写真と一緒に残します。これで、設計・施工・運用の視点が一本につながり、過不足のない建物になります。
働く人々のライフライン・スマートフォン通信環境と防災非常用電源BPS
会社は従業員を守る責務があります。停電を伴う災害時に働く人々が最も悩まされるのは、スマートフォンの充電と言われています。スマートフォンがあれば家族との連絡も取れ、災害についての最新情報を知ることもできます。復旧までに平均3日かかると言われる停電で多くの従業員のスマートフォン電源を保つためには、防災非常用電源と呼ばれる設置型の蓄電池を置くことがおすすめです。「防災非常用電源BPS」は、常にフル充電で使えるスマートフォン充電に特化した蓄電池です。たくさんの充電ケーブルや照明が付属し、ラジオの視聴も可能です。なお太陽光パネルで繰り返し使用することもできます。
「防災非常用電源BPS」は従業員が集まる工場・倉庫・事務所に1台設置するだけで停電時の不安を一層できる強力なBCP対策アイテムです。詳しくは埼和興産のBPS紹介ページをご覧ください。
BCPの要点を建物と運用に落とし、止めない現場をつくる
工場・倉庫・事務所の建設でBCPを形にする近道は明快です。最初に「再開したい業務」と時間目標を決め、敷地と周辺の外部リスクを見える化し、配置・高さ・動線に反映します。建物は骨組みだけでなく非構造部材の固定や出入口の計画まで一体で考え、電源・通信は段階的に二重化します。なお非常電源に平常時から使える蓄電池やBPSのような防災電源を組み込み、通信手段を確保することも大切です。
工場・倉庫・事務所の建築をお考えでしたら、埼和興産に建築をお任せください。設計や建築のプロが対応いたしますのでご安心いただけます。建築でお悩みの方はお気軽にご相談ください。
※本記事は一般的な解説です。最新の法令・自治体運用と個別条件に基づき、設計者との打合せが必要です。